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オウム真理教による犯罪被害の救済に関する基本的な考え方

2008/1/18

自由民主党政務調査会
「司法制度調査会」「犯罪被害者保護・救済特別委員会」合同会議「犯罪被害者等基本計画」の着実な推進を図るプロジェクトチーム
 
1 はじめに
 
 当プロジェクトチームは、平成19年10月23日の会合において、「犯罪被害者等支援のための緊急声明」を取りまとめるとともに、オウム真理教による犯罪の被害者等の実効的な救済を図るための議員立法に取り組むことを宣言し、同年11月1日以後、合計7回にわたりプロジェクトチーム会合を開催し、関係団体及び有識者からのヒアリングを重ね、併せて、議員と関係省庁による作業部会を開催し技術的な問題点の検討等を進めてきた。
 ここに、その検討の経過を報告するとともに、この問題についての基本的な考え方を示すことによって、党の内外における議論を喚起し、これを踏まえ、本格的な立案作業や他党との折衝等に当たることとするものである。
 
2 趣旨
 

 地下鉄サリン事件等オウム真理教によって行われた無差別大量の殺 傷行為は、我が国の国家体制や社会を破壊する目的の下に行われた悪 質重大なテロ行為であり、かかるテロ行為によって不特定又は多数の 者が被った惨禍が未曾有のものであること等にかんがみ、当該テロ行 為による被害者に対し特別の給付を行うことにより、テロと戦う我が 国の姿勢を明らかにするものとしてはどうか。

 オウム真理教の破産手続が今年3月にも終結し、最終的に約3割5分強の配当率に止まる見込みであることが今回の検討の契機となったことなどから、作業部会においては、当初、オウム真理教の破産手続において債権届出を行っている被害者の救済を立法趣旨として検討が開始された。
 しかし、その後の作業部会において、「テロ事件には、要人暗殺等を含め様々な態様があり、他の一般の犯罪被害者と区別し、オウム事件の被害者だけを特別に国が救済することを合理化するためには、国家や社会の転覆を目的とした無差別大量殺人事件であり、いわば国の身代わりになって被害を受けたものであることを明確に規定し、他の一般犯罪の被害者との差別化を図るべきではないか。」などの発言があり、加えて、新聞報道を見たオウム事件以外の犯罪被害者や破産手続における債権届出をしていない地下鉄サリン事件の被害者から、不公平であるとの苦情が内閣府に寄せられたことが報告されるなどした。このような状況を踏まえ、当プロジェクトチームとしては、破産手続から離れてオウム事件被害者の救済を考えることとするとともに、他の一般犯罪の被害者と合理的に区別し、厳しい財政状況の中で、国による特別の給付について納税者である国民の理解を得るためには、上記のように、救済対象となるテロ行為の性質を厳密に限定する必要があるとの基本的立場に立って検討を進めてきたものである。

 
3 給付の対象者
 

オウム真理教によって行われたテロ行為(いわゆる松本サリン事件 及び地下鉄サリン事件)により、生命又は身体を害された者(遺族を 含む。)とし、破産手続において債権を届け出た者に限らないことを 基本としてはどうか。

 上記制度趣旨に関する検討を受け、当プロジェクトチームとしては、給付対象者の範囲について、オウム真理教が行った事件の中でも国家・社会に対するテロ行為、すなわち、国家・社会の転覆を狙った犯行であり、国民の誰でもが被害者になる可能性のある無差別大量殺人事件であると衆目の一致するところと思われる松本サリン事件と地下鉄サリン事件の被害者に限定する方向で検討を進めている。
 この点については、国家や社会の転覆を目的とする無差別大量殺人事件を行った団体であるというテロ行為の主体に着目し、当該主体が一連の犯罪行為を遂行する過程で障害となる人物を排除したという事件の性格にかんがみ、いわゆる坂本弁護士一家殺害事件や目黒公証役場事務長殺害事件等にまで対象とすべきとの見解もある。
 しかし、不法集団構成員による個別的な殺人事件を対象に取り込むことで、暴力団事件を始めとする一般犯罪の被害者との区別が不明確になり、今後の犯罪被害者施策全般に対する影響も避けられない。
 したがって、その当否については、厳しい財政状況の中で国民の理解が得られるかどうか、を慎重に見極める必要があると思われる。
 さらに、破産手続は、債務者(加害者)の財産から債権者(被害者)が公平に弁済を受けられるようにするための裁判手続であって、国による補償とは本来無関係の独立した手続である上、破産手続における債権届出を行っている者はオウム事件全被害者の約5分の1にすぎないことなどにかんがみると、国による見舞金の給付を債権届出の有無に係らしめることは著しく不公平な結果となり、相当でないと考え、給付対象者を破産の債権届出をしている者に限らないものとする方向で検討を進めてきた。  なお、十分な自助努力を行った者しか救済しないとして、債権届出を行った者に限定するという見解については、債権届出をしないということは、オウム真理教の破産手続の中で配当を受けることを望まなかっただけのことであり、国による特別の給付を受けられなくなることを承知していたものではないから、権利の上に眠っていたと評価することはできないし、見舞金であるという給付の性質にも整合しない点で、問題があると考えられる。

 
4 給付の性質(法律構成)
 

 国が、行政上の給付(見舞金的性格の給付)をするものとしてはど うか。

 犯罪による被害については本来加害者本人が損害賠償責任を負うのが基本原則である。
 国が被害者の損害を填補することは、実質的に犯人の債務を肩代わりすることになるので、モラルハザードを引き起こしかねない上、オウム真理教やその事実上の後継団体に経済的利益を与えるかのような法律構成を採用することは相当でないと考えられることなどにかんがみ、当プロジェクトチームとしては、見舞金的性格の行政上の給付とする方向で検討を進めてきたところである。この点については、特段の異論は見られなかった。
 なお、行政上の給付(見舞金的性格の給付)としても、実質的には損害の一部てん補に当たると考えられるので、オウムに対する求償権の取得についての考え方は後記のとおり。

 
5 給付額
 

 被害の程度に応じ類型化(死亡、重度後遺障害、一定以上の傷害等) した上で、年齢・収入等にかかわらず、一定額を給付するものとし、 労災保険等他の法令による給付との調整は行わないものとしてはどう か。
 被害の程度による分類については、認定作業が困難にならないよう 単純なものとするとともに、金額については、他の弔慰金制度を参考 にしつつ、他の法令上の給付や破産手続による配当との関係でオーバ ーフローとなることのないよう配慮して定めることとしてはどうか。

 作業部会においては、当初、破産債権の残額全部を給付するものとし、他の法令上の給付がなされている場合にはその額を控除する方向で検討を始めたが、「そもそも破産手続における認定額によって行政上の給付額を画することの合理性はあるか。」「あまりにも手厚い給付を行うことは、他の一般犯罪の被害者との対比において合理的範囲を逸脱したアンバランスとなる。」「労災保険等の他の法令上の給付額や破産手続における配当額との関係で二重払いとならないよう厳格な調整を行う必要が生じる。」「災害弔慰金等を参考にして、被害の類型ごとに一定額としてはどうか。」などの発言があった。給付金額そのものについては与党間の協議に委ねることが相当と考えられるが、当PTとして基本的方向性については異論がなかったところである。

 
6 給付の手続・事務
 

 国において、被害者からの申請を受け付け、認定及び給付を行うこ ととしてはどうか。
 実際の認定・支給事務においては、破産事件、刑事事件、労災給付 等の認定資料などを有効に活用して、申請者の立証の負担を可及的に 軽減するよう配慮することとしてはどうか。

 給付の性質を、破産手続と関係のない、見舞金的性格の行政上の給付とし、救済対象者の範囲を、破産手続における債権届出をしている被害者に限らないものとすれば、必然的に上記仕組みになるものと考えられる。
 所管省庁については、今後更に検討する必要があるが、テロ行為による被害であること及び個別の犯罪被害者に対する給付事務であることを踏まえ、既存の所掌事務のあり方との整合性を確保し、既存の組織機構の有効活用を図る観点などからすれば、警察庁を軸に検討を進めるべきものと考える。
 なお、関係団体等からは、破産手続における債権届出を行っている被害者が、過度の事務負担を余儀なくされるのではないかとの懸念が示されたが、破産管財人において公正な手続きに基づいて破産届出債権について債権の認否を行い、破産裁判所の許可を得てこれに基づいて破産配当手続きを行なっていること等に鑑みると、破産債権者に限っては破産管財人の認定を事実上尊重する等の取り扱いによって、新たな立証を不要とするなどの対策を講じることも十分に可能であると考える。

 
7 求償
 

国は、被害者に対する給付の限度において、加害者に対する損害賠 償請求権を取得するものとし、可能な限り、回収に努めることとして はどうか。

 見舞金的性格のいわば贈与金であるとしながら、贈与した対価として加害者に対する同額の損害賠償請求権を国が取得し、その分、被害者等が加害者に対して行使することができる損害賠償請求債権額が減少することになるのは、本来の給付の性質と矛盾するのではないかという点について議論を重ねてきた。
 しかし、前述したとおり実質的には、慰謝料相当額の損害の一部補てんという性質を有することも否定できないことにかんがみ、国が加害者に対する求償権を取得するものとしても不合理とはいえない。
 なお、作業部会においては、「国が給付額と同額の加害者に対する求償権を取得するものとし、国は債権の適切な行使に努める旨の訓示規定を設けるべきである。」「国が求償権(損害賠償請求債権)の行使を通じて、後継団体を解散に追い込むべきである。」などの強い意見があったが、オウム真理教は破産手続の終了により消滅し、その事実上の後継団体とされるアーレフやひかりの輪に対しては、法的には、直接求償することはできないこと、実行行為者はそのほとんどが死刑判決を受けるなどして身柄を拘束されており、無資力であると考えられることなどに照らし、国による求償は現実的には極めて困難であることも理解しておく必要がある。
 このような事情に鑑み求償に関する規定を設ける場合には、不可能な事務を国に義務付けることとならないよう、かつ、国民に過度の期待を抱かせることのないような、慎重な配慮が必要である。
 そこで、国が給付の限度で加害者への求償権を取得するものとしつつ、オウム真理教の事実上の後継団体への求償を必ずしも当然の前提とすることなく、一般的な規律に従って回収に努めるものとする方向で検討を進めることとしたい。
 なお、求償の実効性確保の点については与党間の協議で更に検討することが適当である。

 
8 おわりに
 
 当プロジェクトチームとしては、いわゆるオウム事件の被害者の方々に対し、心からの同情と共感を寄せるものであり、被害者の方々に対する十分な救済がなされないままに事件から既に十数年が経過していることを誠に不本意に思うところである。また破産管財人を始めとする関係者による被害者救済に向けたこれまでの永年にわたるご努力に対し深甚なる敬意を表するものである。
 ところで、今回の当プロジェクトチームの考え方は、破産管財人や被害者団体の要望を完全に満たすものとはなっていないことは認めざるを得ない。
 これは、政権を担う責任政党としての立場から、法制度としての合理性、他の一般犯罪の被害者との均衡、今後の犯罪被害者支援施策に及ぼす影響、厳しい財政状況等を総合的に判断したためである。
 万一合理性のないばら撒きと批判されるような事態になれば、かえって、破産管財人のご努力を無に帰せしめ、かえってオウム事件の被害者の方々を傷つけることにもなりかねないと危惧しているところでもある。
 被害者の方々を真に救済し、その立ち直りを助けるためには、国による金銭的給付を実現するだけでは勿論十分でない。
 当プロジェクトチームはサリン被害者について、医療・福祉・年金等の関連制度に不備がないかを見直すことなど、更に総合的な施策を検討していく必要があるものと考える。
 なお、オウム被害弁護団等からは平成20年1月11日付けをもっていわゆる暫定A案と暫定B案を合体した形での救済法の成立を強く希望する旨の要望書が寄せられたところではあるが、現時点において上記の理由から直ちにこれに応えることはできないことを付言しておく。
 
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